個人事業主が引っ越しをすると、住民票の異動だけでは終わりません。納税地の異動届出書や開業届の再提出など、税務署への届出が複数発生します。手続きを忘れると確定申告時に混乱する原因になるため、早めの対応が欠かせません。
引っ越し前後で必要な届出を時系列で整理し、確定申告への影響や届出を忘れた場合の対処法まで網羅しました。会計ソフトの住所変更設定も含め、一つずつ確認していきましょう。
この記事でわかること
– 引っ越し時に税務署へ提出する届出書の種類と提出先
– 確定申告の提出先や地方税に与える具体的な影響
– 届出を忘れていた場合のリカバリー手順
個人事業主が引っ越したら必要な届出一覧

引っ越しに伴う届出は1種類だけではありません。状況に応じて複数の届出が必要になるため、まず全体像を把握しておくことが重要です。
| 届出書類 | 提出先 | 提出期限の目安 | 対象者 |
|---|---|---|---|
| 所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書 | 旧納税地の税務署 | 届出任意(異動後すみやかに) | 全員 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 新納税地の税務署 | 異動から1か月以内 | 自宅を納税地にしている場合 |
| 預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書 | 新納税地の税務署 | 届出任意(異動後すみやかに) | 振替納税を利用中の場合 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 新納税地の税務署 | 移転から1か月以内 | 従業員を雇用している場合 |
上記のうち「納税地の異動届出書」と「開業届の再提出」は多くの個人事業主に該当します。振替納税を利用している方は口座振替の手続きも忘れずに行いましょう。
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納税地の異動届出書の書き方と提出方法

納税地の異動届出書は、引っ越しによって所轄税務署が変わることを届け出るための書類です。2023年1月1日以降、提出は任意になりましたが、届出を行うことで新旧の税務署間の引き継ぎがスムーズになります。
書面での提出手順
書面で提出する場合は、国税庁の「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」をダウンロードして記入します。記入項目は氏名・旧住所・新住所・異動年月日・届出の理由など基本的な内容のみで、記入自体は10分程度で完了します。
提出先は「異動前」の旧納税地を所轄する税務署になります。新住所の税務署ではないため、間違えないよう注意してください。所轄税務署は国税庁のサイトで郵便番号から検索できます。
窓口に持参するか、郵送でも提出できます。郵送の場合は返信用封筒(84円切手貼付)を同封すると控えを返送してもらえるので、届出完了の証拠として保管しておきましょう。
e-Taxでの提出手順
e-Taxを利用すれば自宅から24時間いつでも提出が可能です。まずe-Taxソフト(WEB版)にログインし、「申告・申請・納税」メニューから「納税地の異動届出書」を選択します。
画面の案内に沿って旧納税地・新納税地・異動年月日を入力し、送信すれば完了します。書面での提出と異なり、e-Taxなら郵送の手間がかからず、送信記録も自動で残るため管理が楽です。
なお、マイナンバーカードとICカードリーダー(またはスマートフォン)が必要になるため、事前に準備しておきましょう。
引っ越しで開業届の再提出が必要なケース
自宅を納税地にしている個人事業主は、引っ越しによって「個人事業の開業・廃業等届出書」の再提出が必要です。これは実質的な「住所変更届」として機能します。
自宅が納税地の場合
自宅兼事務所で働いている個人事業主は、引っ越し先の住所を記載した開業届を新しい税務署に提出します。提出期限は異動から1か月以内です。開業届にはマイナンバーの記載も必要になるため、マイナンバーカードまたは通知カードを手元に用意しておきましょう。
記入時は「開業」ではなく「その他」の区分を選び、備考欄に「住所移転のため」と記載してください。屋号を変更しない場合でも、新しい届出書に改めて屋号を記入する必要があります。記入方法に迷う場合は国税庁サイトの記載例を参照するか、新しい税務署に電話で確認するとスムーズです。
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事業所が納税地の場合
自宅とは別に事業所を構え、その事業所を納税地にしている場合は、自宅が変わっても納税地は変わりません。事業所の住所が変わらなければ、開業届の再提出は不要です。ただし、住民票の異動届や各種保険の住所変更など、税務以外の手続きは通常通り必要になります。
事業所自体を移転する場合は開業届の再提出が必要です。自宅の引っ越しと事業所の移転が同時に発生するケースでは、どちらを納税地にするか事前に決めておきましょう。納税地の選択は「住所地」「居所地」「事業所の所在地」の3つから選べるため、税務署に相談のうえ自分に有利な選択をすることが可能です。
振替納税を利用中の場合の追加手続き

振替納税(口座引き落としで所得税や消費税を納付する制度)を利用している場合、引っ越しに伴い「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」を新しい税務署に提出する必要があります。
この手続きをしないと、振替納税が解除されてしまい、納付書による現金納付に戻ります。引っ越し後の最初の確定申告で「振替日に引き落とされなかった」というトラブルは少なくありません。
e-Taxからもオンラインで提出できるため、納税地の異動届出書と同じタイミングで済ませておくのが効率的です。同じ金融機関の口座を引き続き使う場合でも、改めて届出が必要な点に注意してください。
引っ越し後の確定申告で変わること・変わらないこと

引っ越し後に気になるのが「確定申告はどう変わるのか」という点でしょう。結論から言えば、所得税の計算や控除の内容は変わりませんが、提出先と地方税には影響が出ます。
提出先税務署の変更
確定申告書の提出先は、その年の1月1日時点の納税地を所轄する税務署です。たとえば2026年8月に東京から大阪へ引っ越した場合、2026年分の確定申告(2027年2月〜3月提出)は大阪の新住所を所轄する税務署に提出します。
年の途中で引っ越しても、申告時点で納税地異動が済んでいれば新しい税務署に提出するのが原則です。異動届出書を出していない場合でも、確定申告書に新住所を記載して新税務署に提出すれば受理されます。不明な場合は新旧どちらかの税務署に電話で確認すれば教えてもらえるため、迷ったら早めに問い合わせましょう。
地方税(住民税・事業税)への影響
所得税や消費税は全国一律の税率なので、引っ越しによって税額が変わることはありません。一方、住民税は1月1日時点の住所がある自治体に納付するため、引っ越しのタイミングによって納付先の自治体が変わります。たとえば12月に引っ越せば翌年の住民税は新住所の自治体に納付する形です。
個人事業税の税率は都道府県ごとに若干異なるケースがあるため、移転先の都道府県税事務所の情報を確認しておくと安心です。ほとんどの業種で税率は同じですが、自治体独自の減免制度が適用される場合もあるため、移転先の税事務所に問い合わせる価値はあります。
e-Taxなら手続きの変更は最小限
e-Taxで確定申告をしている場合、住所情報を更新するだけで新しい税務署への提出に自動的に切り替わります。利用者識別番号はそのまま引き継げるため、新たに取得し直す必要はありません。書面で提出していた方は、この機会にe-Taxへの切り替えを検討すると今後の手続きが楽になるでしょう。
e-Taxなら提出先の税務署を意識する必要がなく、送信時にシステムが自動で振り分けてくれます。マイナンバーカードがあればスマートフォンからでも申告可能です。引っ越しが多い個人事業主にとっては、提出先を毎回調べる手間が省けるe-Taxの利便性は大きなメリットになります。
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届出を忘れた場合の対処法
「引っ越してからしばらく経つけど届出をしていない」という方も焦る必要はありません。納税地の異動届出書は2023年以降、提出義務が廃止されており、届出をしなかったことによる罰則はありません。
ただし、届出をしないままだと旧住所の税務署に書類が届き続けるなどの不便が生じます。気づいた時点で速やかに届出を行えば、過去の届出漏れについてペナルティを受けることはないため、できるだけ早く手続きしましょう。
開業届の再提出も同様で、提出期限(1か月以内)を過ぎていても受理してもらえます。確定申告の時期が近い場合は、確定申告書に新住所を記載して提出すれば、税務署側で住所変更が反映されるケースもあります。
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まとめ
個人事業主の引っ越しでは、納税地の異動届出書・開業届の再提出・振替納税の口座振替依頼書の3つが主な届出になります。提出先は届出によって旧税務署・新税務署と異なるため、一覧表で確認してから手続きを進めてください。
確定申告の提出先は引っ越し後の税務署に変わりますが、所得税の計算方法や控除内容は変わりません。e-Taxを利用すれば住所変更の反映も簡単です。届出を忘れていた場合でも罰則はないため、気づいた時点で早めに対応すれば問題ありません。会計ソフトの住所設定も忘れずに更新しておきましょう。

