フリーランスとして独立する際、多くの手続きが必要になりますが、その中でも特に重要なのが「開業届」の提出です。この文書は、あなたのビジネスが正式にスタートしたことを国に伝えるためのものであり、税務上のさまざまな手続きの基盤となります。
本記事では、フリーランスになる際に必要な開業届の基礎知識から、正しい書き方、提出方法までを詳しく解説します。これからフリーランスとして独立を考えている方のために、必要な情報をわかりやすく提供しますので、安心して事業のスタートを切るための一助としてください。
開業届とは?
開業届とは、新たに事業を始めた個人事業主が税務署に対して事業開始を届け出る公式な書類です。この手続きは、自身が個人事業の形態で業務を開始する実際の日から1ヶ月以内に完了する必要がありますが、事前に提出することも可能です。
開業届を提出することによって、個人事業主として正式にスタートしたことを認められ、具体的な税務処理が始まります。
この届出は、事業に関連する税金の申告や納税の義務が発生することを意味するだけでなく、例えば青色申告特別控除の適用を受けることができるなど、事業主にとって多くの税制上のメリットを享受するための条件となります。
(※青色申告特別控除の適用には、別途「青色申告承認申請書」の提出が必須)
また、事業用の銀行口座を開設する際や、ビジネスローンを申し込む際にも開業届が必要となるケースが多く、信用の証明としての機能も果たします。
開業届が必要なフリーランスの条件
開業届は、自らの事業から収益を得ることを目的とした独立した業務を開始するすべてのフリーランスにとって必要な書類です。これには、フリーランスのコンサルタント、イラストレーター、ライター、プログラマー、エンジニアなど、独立してサービスを提供する個人が含まれます。
副業として安定した収入を得ることを目指す場合や、小規模ながらも定期的な事業収入がある場合にも提出が義務付けられています。
逆に、趣味の範囲で収入が発生する場合や、一時的、不定期の収入の場合には必ずしも提出する必要はありません。
重要なのは、収益活動が持続的で事業的な性格を帯びているかどうかです。税務上の処理だけでなく、公的な事業主としてのステータスを確立するためにも、開業届の提出はフリーランスにとって初期の重要なステップの一つと言えるでしょう。
開業届の提出が不要なフリーランスの例
なんらかの仕事で報酬を受け取っている方の中には、「自分が開業届を提出しなければならない立場なのか分からない」という方もいらっしゃるでしょう。
以下に、開業届の提出が不要なフリーランスの例をまとめました。あくまでも一例ではありますが、ぜひ参考にしてください。
趣味のイベント活動で臨時収入がある人
趣味で作成したアート作品を不定期にオンラインで販売したり、写真撮影を趣味としており、たまに写真が雑誌等に掲載されて報酬を受け取るような場合、これらの活動は事業とは見なされず、開業届の提出は不要です。
たまに単発のフリーランス業務を行う人
年に数回程度、特定のイベントやプロジェクトのためだけにフリーランスの仕事をする場合、本業とは別の一時的なものであれば開業届を提出する必要はありません。
まだ収入が発生していないフリーランス
事業を始めたもののまだ収入が発生していない、または収入が非常に少ない場合、事業としての実態がないと判断される可能性があります。これらの場合、開業届の提出は求められないことが多いです。
開業届を提出しないと罰則はある?
開業届を提出しない場合の罰則は直接的には設けられていませんが、開業後1ヶ月以内に提出することが原則とされています。この期限を守らないと、税務上の手続きで不利益を受ける可能性があります。
例えば、青色申告を行うことで享受できる税制上のメリットを失ったり、確定申告時に必要な帳簿の作成義務が発生したりする場合があります。
青色申告を選択する際には、開業届と一緒に「青色申告承認申請書」を提出する必要があり、これによりさらに大きな税務上のメリットを受けることができます(白色申告の場合は不要)。
したがって、開業届の提出は、法的な罰則以上に税務上の利点を考慮して行うことが望ましいといえます。
開業届の書き方を5STEPで解説
ここからは、開業届の具体的な書き方を5つのステップで簡単に解説します。
1.基本情報を記入する
開業届の最初の部分では、事業者の基本情報を記入します。これには、フルネーム、住所、生年月日などが含まれます。明確で読みやすい文字で記入することが重要です。間違いがあると、提出後に訂正が必要になるため、最初から慎重に記入しましょう。
2.事業内容を記入する
続いて、事業内容を具体的に記入する欄があります。ここでは、行う事業の種類や業務内容を簡潔に書きます。例えばイラストレーターなら、「イラスト制作及び販売」といった形で記述します。あまりにも漠然としたり、逆に詳細すぎたりする記述は避けるようにします。
3.開業日を決める
開業届には開業日を明記する必要があります。これは事業を開始した日であり、税務上の様々な手続きの起算点となるため、正確な日付の記載が必須です。ここでの日付は、後の税務申告などで非常に重要な意味を持つため、誤りがないように注意しましょう。
4.必要書類を添付する
開業届を提出する際には、身分証明書のコピーなど、必要に応じて他の書類が必要になる場合があります。必要書類が地域の税務署によって異なる場合があるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
5.提出方法の選定
開業届は、直接税務署へ持参する方法と郵送で提出する方法、e-TAXを使ってオンラインで提出する方法の3種類があります。自分にとって都合の良い方法を選ぶと良いでしょう。
筆者としては、e-TAXを使う方法が手軽でおすすめです。詳しい提出方法については、次の項で解説します。
開業届の作成方法が難しい場合は作成ツールが便利
開業届の作成が難しいと感じる場合、専用の作成ツールを使用することが大変便利です。これらのツールは、必要な項目を簡単な質問形式で入力するだけで、自動的に適切な形式で開業届を作成してくれます。
国税庁のWebサイトで提供されている「開業届出書等作成コーナー」や、民間企業が提供する無料・有料のサービスなどがあり、特に税務に詳しくない初心者にとっては、時間節約にもなり、誤りを防ぐ手助けとなります。
国税庁のツールは使い方が複雑で難しいため、無料で登録できるマネーフォワードの「クラウド開業届」を活用するのがおすすめです。
開業届の提出方法
開業届を提出する税務署は、事業の所在地によって異なります。最寄りの税務署を見つけるには、国税庁の公式ウェブサイトにアクセスし、提供されている税務署検索ツールを使用しましょう。
また、インターネットで「[住所] 税務署」と検索することでも、管轄の税務署を見つけることができます。
e-TAXを使って提出する
e-TAXは、税務関連の書類をオンラインで提出できる便利なシステムです。まず、e-TAXのウェブサイトにアクセスし、ユーザー登録を行います。次に、必要な書類を電子的に準備し、指示に従ってアップロードします。
最後に、送信前に入力内容を確認し、エラーがないことを確かめたら提出を完了させます。提出の受領証は、後で確認できるようにプリントアウトするかデジタル形式で保存しておきましょう。
参考:e-Taxの開始(変更等)届出書作成・提出コーナーについて | 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
管轄の税務署に郵送する
郵送で開業届を提出する場合、適切な封筒に記入済みの書類を入れ、提出先の税務署の住所を正確に記載して発送します。必要であれば書留や速達を利用して追跡できるようにすると良いでしょう。
注意点として、開業届の控えを返送してほしい場合は、返送分の郵便切手を封筒に貼り付けた上で返信用封筒を同封しなければなりません。
開業届の控えはさまざまな場面で利用するので、必ず控えを受け取っておくことをおすすめします。
管轄の税務署に直接持参する
直接税務署へ持参する場合は、開庁時間内に行くようにしましょう。開業届と一緒に必要な身分証明書も忘れずに持参します。書類には原則としてマイナンバーの記載が必要になるため、自身の番号を調べておくことも重要です。
提出した開業届は、受領証をもらって一部返送してもらうことを忘れないでください。この受領証が押された開業届のコピーは、将来的に提出した証明が必要になる場合に備えて、保管しておく必要があります。
よくある質問(FAQ)
下記に、フリーランスの開業届作成に関してよくある質問をまとめました。
間違って記入したときはどうやって訂正すればいい?
記入ミスがあった場合、修正液や修正テープで訂正するのではなく、該当箇所に黒のボールペンで斜めに二重線を引き、訂正印を押して正しい情報を記載しましょう。視認性があまりにも低くなる場合は、新しく書き直すのも選択肢のひとつです。
1ヶ月以内に提出できなかったときに追加で行う手続きはある?
提出期限を過ぎた場合でも、特別な追加手続きは必要ありません。ただし、早めに提出することが望ましいです。期限後の提出であっても、税務署は開業届を受理してくれます。
開業届提出後に税務署から連絡が来ることはある?
税務署からの連絡は、提出された開業届に不備があった場合と、郵送した書類の控えの返送の2パターンあります。
直接税務署に持参した場合、書類の内容に不備があればその場で指摘を受けることが多いです。郵送の場合は書類の不備があると、税務署から差し戻され、再提出が必要になります。問題がない場合、受理された後に開業届の控えが郵送されてきます。
e-TAXを利用した場合は、システム上のメッセージで不備が通知されることがありますので、定期的にログインして状況を確認することが大切です。
引っ越したらもう一度開業届を提出する必要はある?
引っ越しをして事務所が移転する場合は、引っ越し前の管轄の税務署に対して再度開業届を提出する必要があります。また、「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出手続」も同時に提出が求められます。
ただし、住所のみの変更で、事務所の納税地が変わらない場合は、再度提出する必要はありません。
【関連記事】個人事業主が引っ越したら確定申告の税務署は変わる!注意点を解説
まとめ
開業届の提出は、フリーランスとしての正式な開業を国に通知する重要な手続きです。これにより税務上の自己の立場を明確にし、将来の確定申告や経費の控除など、税務処理の基盤を築きます。
トラブルを避け、スムーズな開業を実現するためには、開業届の正確な記入とタイムリーな提出が欠かせません。提出は複雑なプロセスに思えるかもしれませんが、開業届作成ツールを活用することで、ミスを減らし、手続きを容易に進めることができます。
フリーランスとしてのキャリアを確実なものにするためにも、開業届の提出は忘れずに行いましょう。
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